感染症と最重症呼吸不全(ARDS)。パンデミックで注目された「水素・酸素混合気体」の真価

ヘッダー画像:ICUの医療機器(人工呼吸器など)やウイルス感染をイメージさせる緊迫感のある医療CG、または胸部X線画像のイメージ

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、世界の医療に深刻な爪痕を残しました。

多くの患者がウイルスそのものだけでなく、ウイルスに対する自分自身の過剰な免疫反応によって引き起こされる「急性重症呼吸器症状(ARDS)」や「サイトカインストーム」によって命を落とすという痛ましい現実がありました。

実はこの未曾有のパンデミックの最中、中国の国家衛生健康委員会(日本の厚労省に相当)が作成した公式のコロナ診療ガイドラインに、ある特殊な治療法が明確に推奨・記載されました。

それが「水素・酸素混合ガスの吸入療法(含有比:水素66%, 酸素33%)」です。なぜ世界的危機の真っ只中で、水素が生命維持の最前線に投入されたのでしょうか。

自らの肺を燃やし尽くす「サイトカインストーム」の恐怖

重症のウイルス性肺炎において最も恐ろしいのは、ウイルスを攻撃しようとした免疫細胞が完全に暴走してしまう「サイトカインストーム(免疫の嵐)」です。

大量の炎症性物質(サイトカイン)が放出されると、それに伴って非常に致死的な「猛烈な酸化ストレス(活性酸素)」が肺の中で爆発的に発生します。

結果として、酸素を取り込むための肺胞は泥水のような分泌液で溢れかえり、人工呼吸器を使っても酸素が血液中に溶け込まなくなる「ARDS(急性呼吸窮迫症候群)」に陥るのです。

肺の炎症を鎮め、呼吸抵抗を物理的に下げる「混合ガス」の特性

ここで導入されたのが水素ガスでした。水素には2つの決定的な役割がありました。

一つは『圧倒的な抗酸化・抗炎症作用』です。肺の奥深くで吹き荒れる凶悪なヒドロキシラジカル(悪玉活性酸素)をピンポイントで水へと還元し、サイトカインストームによる自滅的な肺組織の破壊を根底から鎮静化させます。

もう一つは『気体の軽さ』です。水素は宇宙で一番軽い分子であるため、粘液でふさがれかけた極端に狭い気管支を通って肺の奥まで到達する際、空気抵抗(気道抵抗)を物理的に劇的に低下させることができます。これにより、自力で呼吸が困難な患者でも、酸素とともに深く呼吸ができるようになり、急激に血中の酸素濃度(SpO2)が改善されたのです。

究極の「命のバックアップ」を証明したデータ

多施設共同で行われた実際の臨床試験データにおいて、この水素・酸素混合ガスを吸入したCOVID-19重症患者のグループは、通常の酸素治療を受けたグループに比べ、呼吸困難感や胸痛、息切れのスコアが驚異的なスピードで改善し、疾患の重症度が有意に低下したことが世界的ジャーナルで報告されています。

「水素を吸う」という極めて安全なアプローチが、人類最悪の感染症の最前線で命を救うツールになったという事実は、現代の感染症および呼吸器救急現場において、科学の歴史が動いた瞬間でもありました。


【引用文献・エビデンス】

  • Guan, W.J., et al. "Hydrogen/oxygen mixed gas inhalation improves disease severity and dyspnea in patients with Coronavirus disease 2019 in a recent multicenter, open-label clinical trial." *Journal of Thoracic Disease*, 2020; 12(6): 3448-3452. (COVID-19患者に対する多施設オープンラベル臨床試験において、水素・酸素混合ガスが呼吸困難や疾患重症度を有意に改善したことを証明した医学論文)