循環器内科への応用。心筋梗塞後の致命的なダメージ「虚血再灌流障害」を抑制する水素のポテンシャル

ヘッダー画像:心臓のCGイラスト、またはカテーテル治療が行われている高度な医療現場(手術室)の様子

心臓の血管が突然詰まり、心筋に血液がいかなくなる「心筋梗塞」。

一刻も早くカテーテル治療等を行い、血管の詰まりを取り除いて血流を再開させることが救命の絶対条件となります。しかし循環器内科の最前線では、この「血流が再開した瞬間」に起きる別の致命的な問題との戦いが長年続いています。それが『虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)』です。

現在、この救急医療の現場における虚血再灌流障害を乗り越えるための切り札として、「純粋な水素ガス吸入」の臨床研究が世界中で進められています。水素は、瀕死の心筋細胞をどのように守るのでしょうか。

血流が再開した瞬間に発生する「活性酸素の嵐」

血流が止まり、酸素ゼロで仮死状態になった心筋細胞に、治療によっていきなり大量の酸素(血液)が流れ込むとどうなるか。実は、細胞の工場であるミトコンドリアがパニックを起こし、毒性の極めて強い「悪玉活性酸素(ヒドロキシラジカル)」が爆発的に発生します。

せっかく血管の詰まりを通したのに、この「再開時に発生した活性酸素」が心臓の細胞を強烈に酸化させ、組織をさらに広範囲にわたって壊死させてしまうのです。ひどい場合は心不全や致死性の不整脈を引き起こすなど、血流の再開そのものが皮肉にも最後のトドメになってしまうリスクを孕んでいました。

瞬時に広がり「サビの嵐」だけを鎮める水素の力

この問題を解決するためには、「酸素と一緒に、最強の抗酸化物質を心臓中に送り込む」必要があります。しかし、通常の薬品は分子のサイズが大きかったり、安全性の面で血流再開の瞬間に間に合わせるのが非常に困難でした。

そこで白羽の矢が立ったのが、宇宙一小さな分子である「水素ガス」です。

心筋梗塞の発症・治療時から水素ガスを吸入させておくと、再灌流の瞬間に発生した強毒性の活性酸素だけを、水素が瞬時に水に変えてシャットアウト(還元)してくれます。

実際の動物実験や臨床研究データにおいても、水素ガスの吸入によって心筋の壊死エリア(梗塞サイズ)が有意に縮小し、その後の心機能の回復が劇的に改善したことが世界的な循環器系のトップジャーナルで多数報告されています。

高度医療のパラダイムを切り拓く

水素吸入療法は単なる「健康法」の枠を完全に超え、心停止や心筋梗塞といった1分1秒を争うクリティカル・ケアの現場で「細胞のダメージを根底から食い止める薬」としてのパラダイムシフトを起こりつつあります。

患者の重篤な後遺症を防ぎ、命の質(QOL)を守り抜くため、水素療法の循環器内科への本格的な導入・応用には計り知れない期待が寄せられています。


【引用文献・エビデンス】

  • Hayashida, K., et al. "H(2) gas improves functional outcome after cardiac arrest to an extent comparable to therapeutic hypothermia in a rat model." *Journal of the American Heart Association*, 2012; 1(5).
  • Katsumata, Y., et al. "The effects of hydrogen gas inhalation on adverse left ventricular remodeling after myocardial infarction in rats." *Circulation Journal*, 2017.

(心筋虚血再灌流障害および心停止モデルに対する水素ガスの強力な保護・抗酸化作用を示した循環器内科学の代表的原著論文群に基づく)